旅日記

12月20日(水)鍋掛・越堀→芦野へ 15.6km

 昨日は朝夕と2回タクシーを利用した。このあたりの旧宿場は交通の利便性はよくない。ゆーバスの時刻表をみると、黒磯駅8:40発、野間十文字9:09着のバスがある。運賃は200円。小型バスだが、最初から終点手前までお客さんはぼく一人だけだった。
 両脇は田んぼの道を歩くと、「樋沢の不動明王像」(お不動さま)の案内板が目についた。鍋掛地域車座談義運営委員会の解説には、「この像は寄木造りという二枚以上の木を組み合わせる技法で作製され、背面に明暦2年(1656)と記されている」とある。祠には小さな不動明王が鎮座していた。
 やがて上り坂(鍋掛愛宕峠)の右側に「鍋掛の一里塚」(江戸より41里目)の案内板がみえてきた。ここも道路拡張で約11m東側に移されている。囲いがされて塚と標柱がある。奥にいくと鍋掛神社(旧愛宕神社)がある。この神社は東日本大震災(2011.3.11)で甚大な被害をうけ修復された、と記念碑に刻まれていた。
 平地に入ると、雪をかぶる茶臼岳などの那須連山がみえてきた。鍋掛公民館敷地内に芭蕉の句碑「野を横に 馬ひきむけよ ほととぎす」がある。解説板(旧黒磯市教育委員会・現在は那須塩原市)によると、この句碑は文化5年(1808)に鍋掛宿の俳人らが建立したという。隣の正観寺には推定樹齢250年のシダレザクラの木がある。春になると美しい花を咲かすことだろう。
 このあたりは鍋掛宿だ。静かな町並みで広い歩道に黒石が並んでいる。鍋掛宿は宿村大概帳によると、本陣1軒、脇本陣1軒、旅籠屋23軒、宿人口は346人いたが、いまは宿場の面影はない。那珂川をはさんですぐ越堀宿があった。かつて那珂川には渡し場跡があった。越堀宿は本陣と脇本陣が各1軒、旅籠屋11軒、宿人口は569人がいた。ここは二宿で一宿の人馬引継ぎの機能をした合宿だった(甲州道中に多くみられる)。
 越堀宿の浄泉寺に寄ってみた。この境内に「黒羽領境界石」の標柱がある。高さ1.51mの花崗岩の四角柱である。標柱は文化10年(1813)頃のものだ。もともとこの境界石は、那珂川の左岸越堀宿の側に建てられていた。
 ふたたび歩きはじめると、右側に大きな「征馬之碑」(昭和13年建立)、「殉征軍馬之碑」(昭和61年)がある。戦争で駆りだされ亡くなった馬の供養碑だ。飼主のことを思うと心が痛む。道はアップダウンを繰り返している。茶臼岳がよくみえる。
 やがて「寺子の一里塚」に着いた。この一里塚は約50m白河寄りにあったが道路拡張によってなくなった。現在の塚は、公園内に1995年に復元されたものだ。ここで昼食休憩。
 ふたたび歩きはじめると余笹川がみえてきた。寺子橋の手前に地蔵堂がある。享保年間(18世紀初め)この地は大飢饉に見舞われたという。地蔵はその供養のために建てられた。またイボ地蔵とも呼ばれ、8月23日には家中安全を願って念仏をあげている。
 さらにすすむと右側に馬頭観音が数基、愛宕神社の常夜燈(明治22年建立)がある。このあたりから那須町に入る。峠をこえると下り坂になる。黒川橋手前の道を旧道に入る。橋げたに1998年8月の豪雨による「最高水位」が示されている。橋が冠水するぐらいの高さだ。まさに自然の猛威を感じる水位だ。
 右側に鳥居がみえてきた。その前に大きな割れ目の夫婦石がある。坂を下ると「夫婦石の一里塚」(江戸より43里目)がみえてきた。右側はほぼ原形に近い塚だ。左右2基が確認できる。西坂で、サンダル、草履などをくくりつけた大きな石碑をみた。「足尾大神」と彫られている。足の病を治す神様だろうか。これは珍しい。
 小さな川を渡るとすぐに河原町地蔵がある。この地蔵は享保12年(1727)に建立された。ここは芦野宿の入口になる。宿村大概帳によると、芦野宿の町並みは約千m、本陣・脇本陣が各1軒、旅籠屋は25軒、宿人口は350人がいた。街道沿いの古い建物は少ないが、建物前には石灯籠があり、足袋屋、ぬり屋、桶屋、ほてい屋などの屋号がかかれて宿場のふんいきをかもしだしている。
 日本三所聖天(他は東京・待乳山、埼玉・妻沼)の一つとされる三光寺を訪ねた。庭仕事をしていたご住職に本堂のなかをみせていただいた。堂内には、白河藩主・松平定信の「聖天」の扁額、天井には動物、花鳥などが描かれている。旅籠「丁子屋」は、いまはうなぎ屋になっている。いま午後2時50分だ。バス停の時刻表をみると、あとⅠ時間余しかない。
 近くに那須歴史探訪館がある。旅の前に「那須町史資料集第4号 奥州道中」を送っていただいたので訪ねてみた。道の途中に「武家屋敷門」(旧平久江家)がある。この門はこの地域の比較的上級武家の門構えだという。幕末には家老職を務めた人物を輩出している。敷地内の「しだれ桜」は推定樹齢400年で、樹高は18mもある。
 大きな歴史探訪館の門は芦野氏陣屋裏門を模したもので、建物内には多く和紙が使われている。館長さんの説明によると探訪館は「道」をテーマに表現しているという。バス停芦野仲町から黒田原駅行きのバスは16:00発。次回はここから福島県の白坂、白河を歩くことになる。


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